液晶における電気流体力学的不安定性
Electrohydrodynamic Instability in Liquid Crystals


自然は絶えず熱力学的に安定な状態へ変化していこうとし,やがて至った安定な状態を維持しようとする。熱平衡系では,エネルギーや物質の出入りのバランスの調節を通してその安定状態(Static Stability)が維持される。しかし,非平衡開放系では,平衡系とは違ってエネルギーや物質を外系から取り込みつつ,それらを別の形に変換して放出し続けることによって安定状態(Dynamical Stability)を保つ。その時非平衡開放系では,系内にエネルギーの流れが生じ,平衡系とは全く異なる多様で興味深い現象が現れる。このような非平衡開放系で形成される構造を散逸構造と呼んでいる。我々が住んでいる地球は,この非平衡開放系の一例として,太陽からのエネルギーをうまく変換しながらその系が維持されている。したがって,そこには大気運動などの様々な大規模の散逸構造が存在する。また,生体もこの非平衡散逸構造の一種として考えられる。
 非平衡散逸構造の代表的な現象の一つとして熱対流Rayleigh-Benard Convection)がよく知られている。この現象は図1aのように流体に温度差を与えることによって実現できる。ある温度差以上になると下から暖まって軽くなった流体は粘性抗力に打ち勝って流れを生じる。一方,異方性液体と言われている液晶に電界を印加することによって系内に対流が生じることが報告されている(図1b)。この電気対流Electrohydrodynamic Convection)は,液晶内に含まれているイオンなどの電荷がクーロン力を受けて運動する際に液晶が引きつられて系内に流れが生じる現象である。この電気対流では,印加電界の増加とともに単純なロール対流構造から乱流に至るまで、様々な散逸構造を呈する。その分岐現象、構造形成過程及びダイナミクスは、非平衡散逸構造に満ちた自然現象を深く理解するのに不可欠である。

図1.上下の温度差による熱対流系(a)と電位差による電気対流系(b)。
図2.電気対流系の実験系
(a)
(b)